大判例

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水戸地方裁判所 昭和24年(と)304号 判決

本籍

青森県南津軽郡五鄕村大字本鄕字松元百八十一番地

住居

茨城県多賀郡松岡町大字上手綱字関口千八百七番地

採炭夫

花田富一郞

大正六年八月二十八日生

本籍

茨城県多賀郡大津町千二百四十九番地

住居

同県同郡松岡町大字上手綱字関口番地不詳

鍜冶工

原礼三

昭和五年一月八日生

本籍並びに住居

同県同郡同町同大字千九百十七番地

採炭夫

石本房松

大正十四年三月二十五日生

本籍

同県同郡高萩町大字石滝五百三十九番地

住居

同県同郡同町大字秋山三千四十四番地

電工

割ケ谷武夫

昭和三年七月四日生

本籍並びに住居

同県同郡松岡町大字上手綱千九百十六番

工作夫

後藤吉一

大正十三年十二月一日生

本籍

同県那珂郡瓜連町大字古徳六百五十番地

住居

同県多賀郡高萩町大字高萩六百番地

高萩炭礦労働組合連合会書記

寺門時子

昭和四年八月二十九日生

本籍

同県東茨城郡緑岡村大字笠原百五十五番地

住居

同県多賀郡松岡町大字上手綱二千七百八十八番地

選炭婦

山野なか

大正七年十月五日生

本籍

同県水戸市花畑百三十八番地

住居

同県多賀郡松岡町大字上手綱字千代田坑社宅

支柱夫

鵜殿秀雄

昭和二年一月十八日生

本籍並びに住居

同県同郡同町同大字二千七百八十八番地

採炭夫

三村好一

大正十三年三月三十日生

本籍

同県那珂郡木崎村大字酒出八十二番地

住居

同県多賀郡高萩町大字北方六百番地

無職

郡司〓一

大正十五年二月三日生

本籍

栃木県芳賀郡益子町大字益子三千二百七十番地

住居

茨城県多賀郡高萩町大字北方六百番地

支柱夫

高松政見

明治三十四年八月十日生

本籍

同県日立市大字助川二千二十三番地

住居

同県多賀郡高萩町大字北方六百番地

工作夫

吉沢勝太郞

大正二年一月二十日生

本籍

東京都千代田区神田司町二丁目十四番地の七

住居

茨城県多賀郡高萩町大字秋山三千四十四番地

炭鉱労務係

高山慶太郞

明治四十一年十月二十日生

本籍

埼玉県行田市大字前谷新田千九百三十三番地

住居

茨城県多賀郡高萩町大字秋山三千四十四番地

自動車運転者

田中昭二

昭和二年七月十日生

本籍

宮城県仙台市跡付町三番地

住居

茨城県多賀郡高萩町大字島名番地不詳

無職

中川清松

大正十五年三月十五日生

本籍

同県同郡同町大字高萩六百番地

住居

同県同郡同町大字秋山三千四十四番地

無職

中島豊

大正九年十二月二十五日生

本籍

同県那珂郡瓜連町大字古徳六百五十番地

住居

同県多賀郡高萩町大字秋山二千四百二十一番地

無職

寺門虎蔵

大正十五年三月三十日生

本籍

秋田県河辺郡岩見三内村大字三内字鳥海七十九番地

住居

茨城県多賀郡高萩町大字秋山三千四十四番地

無職

小野寺明

大正十三年八月十日生

本籍

同県同郡松岡町大字上手綱二千二百五十三番地の一

住居

同県同郡高萩町大字秋山三千四十四番地

無職

大坪馨

大正九年八月二十日生

右被告人花田、同原、同石本、同割ケ谷、同寺門時子、同山野、同鵜殿、同郡司、同寺門虎蔵、同小野寺に対する逮捕監禁、被告人後藤に対する逮捕監禁、公務執行妨害、被告人高松、同吉沢に対する公務執行妨害、被告人中川に対する監禁、公務執行妨害、傷害、被告人三村、同高山、同田中、同中島、同大坪に対する監禁各被告事件について、当裁判所は検察官武村啓太郞関与の上審理を遂げ左の通り判決する。

主文

被告人花田富一郞、同高山慶太郞、同中島豊を各懲役八月に処する。

被告人原礼三、同石本房松、同割ケ谷武夫、同後藤吉一、同鵜殿秀雄、同寺門虎蔵、同小野寺明、同中川清松、同寺門時子、同山野なか を各懲役六月に処する。

被告人郡司〓一、同大坪馨を各懲役四月に処する。

被告人高松政見、同吉沢勝太郞を各懲役三月に処する。

但し被告人寺門時子、同山野なか、同郡司〓一、同高松清見、同吉沢勝太郞に対しいずれも本裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用中被告人花田富一郞外十二名に対する逮捕監禁等(昭和二十四年(と)第三〇四号)及び被告人高山慶太郞外一名に対する監禁(昭和二十四年(と)第三一三号)被告事件につきその第八囘公判期日までに要した分は被告人花田富一郞、同原礼三、同石本房松、同割ケ谷武夫、同後藤吉一、同寺門時子、同山野なか、同鵜殿秀雄、同郡司〓一、同高松政見、同吉沢勝太郞、同高山慶太郞の連帯負担とし、

証人中山実、同大葉孝、同斎藤一男、同安島秀雄に支給した分は被告人中島豊、同寺門虎蔵、同小野寺明、同大坪馨の連帯負担とし、

証人近藤好、同鈴木耕一郞、同高〓義、同山岸達也に支給した分は被告人中川清松の負担とし、

その余の分は全部被告人三村好一、同田中昭二を除くその余の被告人等の連帯負担とする。

被告人三村好一、同田中昭二はいずれも無罪。

被告人中川清松は監禁の点につき無罪。

被告人中島豊、同大坪馨は尾島周司及び柳沢良助に対する監禁の点につきいずれも無罪。

被告人寺門虎蔵は尾島周司に対する監察の点につき無罪。

理由

高萩炭鉱株式会社高萩鉱業所々属の関口、北方手綱、千代田、秋山等各坑の従業員は従来各坑別にそれぞれ単一労働組合を組織し、右各単一組合はもと全日本石炭産業労働組合高萩支部連合会(以下単に高萩支部連合会と称す)を結成していたが、昭和二十三年秋頃から右各坑別単一労働組合においてはそれぞれ一部の組合員が旧組合を脱退して新たに別個の労働組合を組織したため、各坑には新旧二個の単一労働組合が存在するに至つた。そして会社側及び従業員等は前記高萩支部連合会に所属する旧来の各単一組合を第一組合と称し、新たに組織された各単一組合を第二組合と称したが、中央において全日本石炭産業労働組合が日本炭鉱労働組合連合会に吸収されるに及び、昭和二十四年三月前記高萩支部連合会も日本炭鉱労働組合連合会に加入しその名称を高萩炭鉱労働組合連合会(以下単に連合会と称す)と改称し、各坑の第一組合はいずれもその支部となつた。

ところが、昭和二十三年終頃から一般経済界では所謂経済九原則の実施を強行することとなり、その結果石炭産業においても金詰りと売行不振を招致し、高萩炭鉱株式会社(以下単に会社と称す)もその影響を受けて経営困難となり経費の縮減、設備の改善、物資の節約等によりその難局を打開する必要に迫られた。

そこで会社は経営合理化の方針を立てこれが実施の障碍を除去するの目的をもつて、さきに高萩支部連合会との間に締結した昭和二十三年一月八日附労働協約(但し昭和二十二年十二月二十九日より実施)特にその「会社が従業員を雇入又は解雇するときは高萩支部連合会と協議の上決定する」旨の人事に関する規定を改訂することを企図し、右協約期間満了の当日である昭和二十三年十二月二十八日高萩支部連合会に対し旧協約全部の廃棄を通告すると共に併せて新協約の締結を申入れた。

これに対し高萩支部連合会は翌昭和二十四年一月二十四日旧協約は同協約第三十二条の適用により自動的に一年間その効力を延長され、なお有効に存続する旨を申入れ、こゝに右条項の解釈問題をめぐり会社との間に紛議を生じたが結局会社は同年二月一日以降旧協約の失効により無協約状態を現出したものとなし、更に同年四月十日一般従業員に対し業務命令の形式をもつて当時有効に存続していた就業規則中懲戒に関する条項等を改訂する旨一方的に通告し、なお全日本石炭産業労働組合の解体以来連合会の存在を否定し屡々開かれた経営協議会に連合会代表の出席を拒否して来たが同年四月十七日には連合会を相手とせず各坑の各単一労働組合に対し各別に新労働協約を締結すべき旨を申入れるに至つた。

よつて連合会は会社の態度を非難し会社側に対し同年四月二十一日労働協約及び就業規則に関し団体交渉乃至経営協議会を持ちたき旨申入れたが会社からその囘答なく、更に同年五月一日労働協約の改訂は旧協約第三十二条を確認の上行うべきこと等三項目の要求を提出したがこれに対する囘答もなかつた。

その間会社は経営合理化の計劃を進め同年五月三日五十八歳以上の老齢従業員に対し停年該当者として解雇する旨を通告し、同月五日以降その出勤を停止するに及び、各坑の第二組合側はこれに従つたが第一組合側はいずれもこれに応ぜず、同月六、七の両日に亘り職場を抛棄し会社側に対し停年該当者の出勤停止を撤囘すべく、要求して譲らず遂にその交渉は決裂した。

次いで会社は同月八日第一組合に対し同月九日より三日間事業場を閉鎖する旨を通告し、なお同月十一日には更に一旦無期限閉鎖を告知し、同日午後十時、翌十二日午前零時を期してこれを解除する旨を通告したがこれと同時に停年該当者は五月五日を限り解雇したる旨を宣言したため、第一組合側は益々闘争の意思を固め会社の措置に対抗して就業を拒否したところ、会社は前記改訂就業規則に基き解雇基準十八項目を定め、同月十七日その三項目以上の該当者として、綱紀肅正を名とし連合会会長、書記長竝びに第一組合各組合長、幹部等六十名の従業員に対し突如懲戒解雇の処分に付する旨を通告した。

これに対し連合会は同月二十一日労働組合法違反を理由として茨城県地方労働委員会に提訴すると共にその後会社側に対し再三、再四団体交渉を持つべきことを要求し馘首の具体的理由の説明を迫つたがその都度会社側からなんら誠意ある囘答を受けることができなかつた。

被告人等(但し被告人郡司〓一、同寺門時子、同中川清松を除く)はいずれも高萩炭鉱株式会社高萩鉱業所々属各坑の従業員で各坑の第一労働組合に属し、被告人花田富一郞は連合会副会長兼関口支部長、被告人原礼三は関口支部執行委員兼青年部長、被告人石本房松は関口支部青年部文化部長、被告人割ケ谷武夫は連合会執行委員、青年部書記長部長兼北方支部委員、被告人後藤吉一、同山野なかはいずれも千代田支部委員、被告人鵜殿秀雄は千代田支部青年部副被告人高松政見は北方支部の組合員、被告人吉沢勝太郞は北方支部委員、被告人高山慶太郞は連合会執行委員兼北方支部委員、被告人中島豊は連合会長、被告人小野寺明及び同大坪馨はいずれも連合会執行委員、被告人寺門虎蔵は北方支部委員であり、又被告人寺門時子は連合会書記、被告人郡司〓一は北方手綱坑の元採炭夫、被告人中川清松は共産党多賀地区の元委員長であつたが、たまたま、同年七月六日多賀郡高萩町大字高萩千九百三十三番地高萩鉱業所において会社側と第一、第二組合側との間に賃金組替に関する協議会が開かれた。

その当日

第一、

一、被告人花田富一郞、同原礼三、同石本房松、同割ケ谷武夫、同後藤吉一、同寺門時子、同山野なか、同鵜殿秀雄同郡司〓一は

(イ)  午後二、三時頃外数名と共に高萩鉱業所に赴き、同所に来合せていた同鉱業所關口坑長尾島周司に対し馘首理由の説明を要求した上、同人の身辺を取り囲み或はその手足を捉えて引張り或はその背後から押し又はその腕を扼し、よつてその自由を制圧し同人を約四百米距つた高萩町大字小桜千八百九十番地高萩炭鉱労働組合連合会事務所に拉致しもつて数名共同して不法に同人を逮捕し、続いて

(ロ)  同人を同事務所内集会室に連れ込み、外十数名と共に取り囲み、同人に対し執拗に馘首理由の説明を迫りつつその頭部、顏面その他を殴打し、或は蹴り、或は小突き廻し、或は袋叩きにし、その身近かに人垣をつくり、よつてその行動の自由を束縛して退去を不能ならしめ、もつて十数名共同して同日午後七時頃まで不法に同人を監禁し(以上昭和二四、七、二六附起訴状記載第一の一の事実)

二、被告人小野寺明は同日午後二、三時頃尾島周司が被告人花田富一郞等により前記連合会事務所内集会室に連れ込まれるや、同被告人等と共に尾島周司を十数名で取り囲み、同人に対し馘首理由の説明を迫りつつその頭部、顏面その他を殴打し或は蹴り或は小突き廻し或は袋叩きにし、その身近かに人垣をつくり、殊に被告人は尾島周司の頭部を手拳で殴打し、よつてその行動の自由を束縛して退去を不能ならしめ、もつて十数名共同して同日午後七時頃まで不法に同人を監禁し

(以上昭和二四、一〇、二六附起訴状記載(一)の事実)

第二、

一、(イ) 被告人原礼三、同割ケ谷武夫、同後藤吉一、同山野なか、同郡司〓一は外数名と共に同日午後三、四時頃前記鉱業所に赴き、前記会社常務取締役重信嵩雄及び高萩鉱業所長柳沢良助の腕を扼し、或はその背後から押し、或はその手を捉えよつてその自由を制圧し同人を約四百米距つた前記連合会事務所に拉致し、もつて数名共同して不法に両名を逮捕し

(以上昭和二四、七、二六附起訴状記載第一の二の(イ)の事実)

(ロ) 続いて、被告人原礼三、同割ケ谷武夫、同後藤吉一、同山野なか、同花田富一郞、同石本房松、同寺門時子、同鵜殿秀雄は外数名と共に柳沢良助は尾島周司同様これを同事務所内集会室に、又重信嵩雄はこれを同事務所内疊敷二疊の間にそれぞれ連れ込み「警察が来たら一戦を交える。その時君等の身体はどうなるか想像がつくだろう」等と申し向けて脅かし、なお柳沢良助に対しては、その頭部、顏面、胸部その他を殴打し或は小突き廻し又は頭部より水をかける等の暴行を加え、その身辺に人垣をつくり、よつて両名の行動の自由を束縛して退去を不能ならしめ、もつて数名共同して同日午後七時頃まで不法に両名を監禁し

(昭和二四、七、二六附起訴状記載第二の二の(ロ)の事実)

二、被告人寺門虎蔵、同小野寺明は同日午後三、四時頃被告人原礼三等と共に前記鉱業所に赴き、数名にて重信嵩雄の腕を扼し又はその背後から押し或はその手を捉え、殊に被告人寺門虎蔵は「面倒だ、連れて行け」「窓から放り出せ」と怒号指揮し率先して同人の手首を掴えて引張り或はその背後から押し又被告人小野寺明、同寺門虎蔵は中村徹、夏原喜三郞等が被告人等の手から重信嵩雄を取り戻さんとするや同人等を叱責し或はこれを押し返してその防禦を排除しよつて重信嵩雄の自由を制圧し、同人を前記連合会事務所に拉致し、もつて数名共同して不法に同人を逮捕し

(昭和二四、一〇、二六附起訴状記載(三)の事実)

三、被告人寺門虎蔵、同小野寺明は同日午後三、四時頃柳沢良助が被告人原礼三等により前記連合会事務所内集会室に連れ込まれるや、同被告人等と共に同人を十数名で取り囲み、その頭部、顏面、胸部その他を殴打し或は小突き廻し又は頭部より水をかける等の暴行を加え、その身辺に人垣をつくり殊に被告人寺門虎蔵は同人に対し「この野郞」と怒号しつつその頭部を手拳で殴打し、被告人小野寺明は「高萩警察署では平事件の応援に行つて手不足だ。若し警察が来たとしても恐るるに足らない。自分は既に二ケ月も食わないでいるのだから食わずにいても平気だ。解雇理由を説明しなければ何時までもやつてやる」と申し向けて脅かし、「何故默つているか」と怒号しつつ同人の耳を引張り、口を摘み、殴打し、よつて同人の行動の自由を束縛して退去を不能ならしめ、もつて十数名共同して同日午後七時頃まで不法に同人を監禁し

(以上昭和二四、一〇、二六附起訴状記載(二)の事実)

四、被告人高山慶太郞は前記のように同日三、四時頃重信嵩雄が被告人原礼三等により前記連合会事務所内畳敷二畳の間に連れ込まれるや、外数名と共に同人に対し馘首の取消を迫つた上「今に警察が大勢来る。その時は吾々は死を覚悟して戦う。その時は君等もどうなるか想像がつくだろう」等と申し向けて脅かし、よつて同人の行動の自由を束縛して退去を不能ならしめ、もつて数名と共同して同日午後七時頃まで不法に同人を監禁し

(以上昭和二四、七三、○附起訴状記載一の事実)

五、被告人中村豊、同大坪馨は前記のように同日午後三、四時頃重信嵩雄が被告人原礼三等により前記連合会事務所内畳敷二畳の間に連れ込まれるや、外数名と共に同人に対し馘首理由の説明を求めその撤囘を迫り、殊に被告人中村豊は「この儘でただでは帰さぬ」と申し向け、被告人大坪馨は「一日二日は食わないでも差し支えないから留め置かれても仕様がなかろう」と申し向け、かつ被告人等は重信嵩雄が退去を乞うもこれを許さず、若し同人が被告人等の要求に応ぜず強いて退去するにおいては如何なる危害を加えられるやも計り難き旨を暗示して同人を畏怖せしめ、なお被告人中島豊は重信嵩雄が進駐軍米兵の救援に乘じ室の東側窓より脱出せんとするや同人を掴えて引き戻し、他の者等と共にその前に立ち塞つてこれを遮り、よつて同人の行動の自由を束縛して退去を不能ならしめ、もつて数名共同して同日午後七時頃まで不法に同人を監禁し

(以上昭和二四、一○、二六附起訴状記載四の事実)

第三、被告人中川清松は前記のように連合事務所内に監禁されていた尾島周司外二名が同日午後七時頃進駐軍米兵の救援により東側窓から屋外に脱出し同所に停車していたジープ内に遁入するや、その附近に居合せた組合員等に対し「ジープを包囲しろ」「出発させるな」と呼号指揮し、組合員等をしてスクラムを組み或は密集してジープを取り囲ましめ又はジープの前面に寝転ばしめてその進行を阻止していたが、同日午後七時三十分頃に至り数十名の警察職員がその現場に出動し、高萩地区警察署司法巡査鈴木耕一郞、同高〓義、高萩町警察署司法巡査山岸達也等が組合員等の妨害を排除してジープを救出せんとするや、これを妨害するため右連合会事務所の屋根に這い登り、次ぎ次ぎに屋根瓦数枚をむしり取つて右警察職員等に投げ付け、もつて同人等が職務を執行するに当り、これに暴行を加えよつて鈴木耕一郞に対しては全治一週間を要する左上膊打撲擦過傷を、高〓義に対しては全治一週間を要する右前膊打撲傷を山岸達也に対しては全治十日間を要する右上膊打撲擦過傷を負わしめ

(以上昭和二四、九、二九附起訴状記載(二)の事実)

第四、被告人後藤吉一、同高松政見、同吉沢勝太郞は外十数名と共に同日午後九時頃前記連合会事務所入口において不法監禁の被疑者を検挙中の高萩町警察署警部補宮田忠郞外数名の警察職員に対し「中に入れるな、同志を守れ」等と叫びながらスクラムを組み身体を打ちつけ又は肩で突き返す等の暴行を加え、もつて十数名共同して右警察職員等の公務の執行を妨害し

(以上昭和二四、七、二六附起訴状記載第二の事実)

たものである。

(証拠説明省略)

弁護人等は被告人花田富一郞等の尾島周司外二名に対する本件所為は馘首問題に関し、労働組合の団体交渉のため行われた正当な行為であるから、労働組合法第一条第二項に該当し犯罪を構成しないと主張するが、たとえ労働組合の団体交渉その他の行為であつても暴力の行使は、いかなる場合においても正当な行為と解釈されてはならないのであつて、このことは同法条項但書の明定するところである。然るに被告人花田富一郞等は判示認定のように尾島周司外二合に対し暴行又は脅迫を加えてその自由を不法に抑圧し同人等を或は逮捕し或は監禁し又は逮捕監禁したもので、その暴力の行使たることはなんら疑いのないところであるから弁護人等の右主張はこれを認容することができない。

なお、弁護人関谷信夫は被告人中川清松の鈴木耕一郞等警察職員に対する本件所為は、組合員等が単にジープの周囲に蝟集していた際多数の警察職員がその職務権限の範囲を逸脱し、不法にも組合員等に対し警棒を振つて殴打する等の暴行を加え、被告人中川清松が大声をあげてこれを制止したがきき容れることなく、その暴行を継続したので、組合員等の生命身体を防衞するため己むなく屋根に上り瓦を投げ付けたもので、まさしく正当防衞の行為であるから犯罪を構成しないと主張するが、組合員等は弁護人主張のように単にジープの周囲に蝟集していたのではなく、判示認定のように或はスクラムを組み或は密集してジープを取り囲み又はジープの前面に寝転ぶ等の方法によつてその進行を不法に阻止妨害していたのであり、その際被告人中川清松は組合員等の右行動を自ら指揮したものである。又鈴木耕一郞等多数の警察職員がジープを救出するため、組合員等の妨害を排除せんとして判示のような行動に出たことはその職務の正当な執行行為であつて弁護人の主張するように組合員等に対する不正な侵害ではない。殊にその際警察職員等が警棒を振つて組合員等を殴打したという弁護人主張の事実は全くこれを認め得ない。要するに被告人中川清松は不正な侵害に対し組合員等を防衞したのではなく、かえつて警察職員が組合員等の不法を排除するため正当にその職務を執行中、不法にも瓦を投げ付け不法な攻撃を加えてこれを妨害したのである。よつて弁護人の右正当防衞の主張もまた到底これを認容することができない。

法律によると、被告人等の判示所為中、逮捕監禁、逮捕、又は監禁の所為は刑法第二百二十条第一項に、公務執行妨害の所為は同法第九十五条第一項に、傷害の所為は同法第二百四条に各該当(共同の点については同法第六十条を適用)するから、公務執行妨害、傷害につきそれぞれ懲役刑を選択し、被告人花田富一郞、同石本房松、同寺門時子、同鵜殿秀雄の第一の一の(イ)、(ロ)の逮捕監禁と第二の一の(ロ)の各監禁、被告人原礼三、同割ケ谷武夫、同後藤吉一、同山野なかの第一の一の(イ)、(ロ)の逮捕監禁と第二の一の(イ)、(ロ)の各逮捕監禁、被告人郡司〓一の第二の一の(イ)の各逮捕、被告人小野寺明の第一の二の監禁と第二の三の監禁、被告人中川清松の第三の各公務執行妨害と各傷害はそれぞれ一個の行為で数個の罪名に触れる場合に該当するから、同法第五十四条第一項前段、第十条により、それぞれ最も重い、被告人花田富一郞、同石本房松、同寺門時子、同鵜殿秀雄、同原礼三、同割ケ谷武夫、同後藤吉一、同山野なかについては第一の一の(イ)、(ロ)の逮捕監禁、被告人郡司〓一については第二の一の(イ)重信嵩雄に対する逮捕、被告人小野寺明については第一の二の監禁、被告人中川清松については各傷害の罪の刑に従い、被告人後藤吉一の右逮捕監禁と第四の公務執行妨害、被告人郡司〓一の第一の一の(イ)、(ロ)の逮捕監禁と右第二の一の(イ)重信嵩雄に対する逮捕、被告人寺門虎蔵の第二の二の逮捕と第二の三の監禁、被告人小野寺明の右第一の二の監禁と第二の二の逮捕、被告人中川清松の右各傷害は、それぞれ同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文第十条により、それぞれ最も重い被告人後藤吉一については、逮捕監禁罪の刑(但し同法第四十七条但書の制限に従う)、被告人郡司〓一については第一の一の(イ)(ロ)の逮捕監禁罪の刑、被告人寺門虎蔵については第二の三の監禁罪の刑、被告人小野寺明については第一の二の監禁罪の刑、被告人中川清松については山岸達也に対する傷害罪の刑に各法定の加重を施し、以上被告人等に対する各刑期範囲内において、各被告人を主文第一項乃至第四項掲記のとおり量刑処断し、被告人寺門時子、同山野なか、同郡司〓一、同高松政見、同吉沢勝太郞に対しては情状刑の執行を猶予するを相当と認め同法第二十五条を適用し、本裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項、第百八十二条により主文第六項掲記のとおり被告人等をして、これを負担せしめる。

本件公訴事実中

判示のように連合会事務所内に監禁されていた尾島周司、柳沢良助、重信嵩雄の三名が同日午後七時頃進駐軍米兵の救援により右事務所の東側窓から屋外に飛び下りるや、被告人寺門虎蔵は「やるなやるな」と怒号指揮し、被告人寺門虎蔵及び同大坪馨は組合員等多数と共に重信嵩雄を取り囲み、被告人寺門虎蔵は同人を殴打しようと打ち掛り、気勢を示して脅迫し前記の三名が窓下に逆行停車したジープ内に潜むや、被告中川清松はその附近に居合せた組合員等に対し「ジープを包囲しろ」「出発させるな」と呼号指揮し被告人割ケ谷武夫、同三村好一、同鵜殿秀雄、同寺門時子、同山野なか、同田中昭二、同中島豊、同寺門虎蔵、同小野寺明、同大坪馨等は組合員数十名と同調し、前記三名を取り囲み、或はスクラムを組み或は密集してジープを包囲し、又はジープの前面に寝転んで制止されるも起き上らず、或はしがみついて押し返す等の方法によりジープの進行を阻止し、もつて被告人等は共同して前記三名の救出を不可能ならしめよつて同人等の行動の自由を束縛し同日午後八時三十分頃に至るまで同人等を不法に監禁したものであるとの事実(昭和二四、七、二六附、起訴状記載三、昭和二四、七、三〇附起訴状記載二、昭和二四、九、二九附起訴状記載(一)、昭和二四、一〇、二六附起訴状記載(五))については、証拠により尾島周司等三名が進駐軍米兵等の救援により連合会事務所の窓から屋外に飛び下り、停車中のジープ内に遁入したところ関係被告人が共同してジープの進行を阻止妨害し右救出を困難ならしめたことを認めることができるが、尾島周司等三名は連合会事務所より屋外に脱出しジープ内に遁入したことにより被告人等の束縛を離れ米兵の庇護の下に置かれたものというべきで既に監禁の状態から解放されたと認めるのが相当であるから、その後被告人等がジープの進行を阻止妨害したことは或は他の罪名の犯罪を構成することのあるのは格別、これを不法監禁の罰条によつて律すべきではない。従つてこの意味において右公訴事実は犯罪の証明がないことに帰する。

よつて、右公訴事実につき

被告人三村好一、同田中昭二、同中川清松に対しては尾島周司、柳沢良助、重信嵩雄に対する各監禁の点、被告人中島豊、同大坪馨に対しては尾島周司、柳沢良助に対する各監禁の点、被告人寺門虎蔵に対しては尾島周司に対する監禁の点につきそれぞれ刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪の言渡をなし、

また、右公訴事実中

被告人割ケ谷武夫、同鵜殿秀雄、同寺門時子、同山野なか、同小野寺明の尾島周司、柳沢良助、重信嵩雄に対する各監禁の点、被告人寺門虎蔵の柳沢良助、重信嵩雄に対する各監禁の点、被告人中島豊、同大坪馨の重信嵩雄に対する監禁の点については、検事において同被告人等の判示関係部分の逮捕又は監禁と右公訴の部分とをそれぞれ継続した一個の行為と認めて起訴したものと認められるから右公訴の部分につき特に主文において無罪の言渡をしない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢口毅 裁判官 綿引末男 裁判官清水春三は転勤につき署名押印することができない。裁判長裁判官 矢口毅)

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